たちが近くの丘を越

2016年03月01日

「あのほうがずっと楽しいでしょう、サー・ベヴィエ」
 ペロシア人貴族の夏の別邸の内装は、外装よりもさらに豪華だった。壁にはみごとな彫刻を施した高価な木材が使われ、床と暖炉はすべて大理石で、家具には最高級のブロケード織の布が如新nuskin產品かけられている。召使は控え目だがよく気がつき、何も言わなくてもなすべきことはすべてやってくれた。
 スパーホークたち一行は、ちょっとした舞踏室ほどの大きさのある食堂で豪華な夕食を摂《と》った。
「これこそが人生ってもんだよ」カルテンが満足げにため息をつく。「なあスパーホーク、どうしておれたちはちょっとした贅沢《ぜいたく》にあずかれないんだろうな」
「われわれは教会の騎士だからな。清貧によって鍛えられるんだ」
「それだって程度問題だろう」
「具合はどうですか」セフレーニアがベヴィエに尋ねた。
「だいぶよくなりました。今朝からまだ一度も血を吐いていません。明日は普通駆足《キャンター》でも大丈夫だと思いますよ、スパーホーク。今のペースだと時間がかかりすぎるでしょう」
「もう一日だけ楽なペースで進もうと思う。地図によると、ヴェンネから先は少々道が険しくて、人もほとんど住んでいないらしい。待ち伏せには絶好の士地だし、尾行してく如新nuskin香港る連中もいる。きみとカルテンとティニアンには、身を守れる程度に回復しておいてもらいたいんだ」
「ベリット」クリクが見習い騎士に声をかけた。
「はい」
たちが近くの丘を越
「ここを発《た》つ前に、一つ頼まれてくれないか」
「何でしょう」
「明日の朝一番にタレンを中庭に連れ出して、徹底的に身体検査をしてくれ。この館のご主人はとても親切だった。不愉快な思いをさせたくないんでな」
「どうしておいらが何か盗むなんて思うのさ」タレンが不平を鳴らした。
「どうしておまえが何も盗まないなんて思える。転ばぬ先の杖だ。この屋敷には小さくて高価な品物がたくさんあるからな。たまたまそのうちのいくつかが、おまえの服の隠しに転がりこむかもしれん」
 寝室のベッドは羽毛を詰めてあり、ふかふかしていて気持ちがよかった。翌朝は夜明けとともに起き、たっぷりした朝食を腹に収めてから、一行は召使たちに礼をいい、待っていた馬にまたがって出発した。昇ったばかりの太陽は黄金色に輝き、頭上には揚げ雲雀《ひばり》の声が聞こえた。馬車の中からフルートが笛の音を合わせる。セフレーニアはだいぶ元気になったようだったが、スパーホークの意見でやはり馬車の中に座っていた。
 正午少し前くらいに、獰猛な顔つきの男えて疾駆《ギャロップ》で近づいてきた。革製の服とブーツを身に着け、頭を剃り上げている。
「東部辺境の部族民だ」前にペロシアにいたことのあるティニアンが警告の声を上げた。「気をつけろ、スパーホーク。情け容赦のない連中だぞ」
 丘を下ってくる一団の馬の扱いは水際立っていた。腰帯には恐ろしげなサーベルをたばさみ、短い槍《やり》を持って、左の腕には丸盾《ラウンドシールド》をつけている。頭目の短い号令でほとんどの者たちがいっせいに馬を止めた。馬の尻肉が震えるほどの急停止だった。五人の手下とともに頭目が前に出る。頭目は目つきの鋭い痩《や》せぎすの男で、頭には無数の傷痕があった。六人がこれ見よがしの技巧で馬を脇に寄せる。たくましい馬たちの動きはみごとにそろっていた。それから六人は槍を地面に突き刺し、華々しい身振りで輝くサーベルを引き抜いた。
「だめだ!」スパーホークたちが本能的に剣を抜こうとするのを見て、ティニアンが叫んだ。「これは儀式なんだ。じっとして」
 頭を剃った男たちは堂々たる歩きぶりで前進した。何かの合図で六頭の馬がいっせいに片膝《かたひざ》をつき、乗り手は手にしたサーベルを敬礼するように顔の前にかざした。
「こいつはすごい! あんな真似のできる馬は見たことがない」カルテンがつぶやく。


Posted by やそれでは at 12:20│Comments(0)
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