あばた顔の悪漢の体を一

2016年07月26日

 ガリオンはポルおばさんの袖をつかんで彼女を明かりから遠ざけようとした。
「よしなさい!」彼女はそう言ってガリオンの手を払いのけた。矢がもう一本、霧に霞んだ木木の中から飛んできた。ポルおばさんは蝿でもはらうように手をさっと振って、ひとつの言葉を口にした。矢はなにか固いものにぶつかりでもしたかのようにはじかれて地面に落ちた。
 つづいて、馬がいななくと同時に、筋骨たくましい荒くれ男の一団が森の縁から飛び出し、剣をびゅんびゅん振り回しながら水しぶきをあげて小川を渡ってきた。バラクとヘターが賊に立ち向かうために突進していくと、レルドリンはテントから抜け出し、目にも止まらぬ早さで次々と矢頭髮保養を放ちはじめた。その瞬間、ガリオンは友だちの勇気を疑った自分を恥ずかしく思った。


 押し殺したような叫び声があがったかと思うと、賊のひとりが喉に矢を突き通したままあとずさりした。さらにもうひとりが胃をつかみながら体をくの字に曲げ、うなり声をあげて地面に倒れた。三人目はかなり若く、頬に薄い綿毛のようなひげを生やしていたが、これもまたドサッとくずれ落ち、うずくまっ整容たまま胸から突き出した矢柄の羽を引き抜こうとしていた。子供っぽい顔には恐慌の色が浮かんでいる。やがて溜息をつくと、鼻から血をしたたらせたまま、ごろりと横倒しになった。
 みすぼらしい身なりの男たちがレルドリンの放つ矢の雨の下でふらふらしているのを見てとると、バラクとヘターは飛びかかっていった。バラクは重い剣を大きくひと振りして、宙をさぐっていた刃をこっぱみじんに打ち砕き、それを持っていた黒ひげの男の首と肩のあいだを斜めにザクッと斬り中醫腰痛つけた。男はその場にドサッとたおれた。ヘターはまず素早い動作でサーベルを振るように見せかけたあと、息に刺し抜いた。ヘターが刃を引き抜いたとたん、その男は体を硬直させ、口から真っ赤な血を吹き出した。ダーニクは斧を片手に突進し、シルクもベストの下から短剣を抜いて、ぼさぼさの茶色のひげの男めがけてまっしぐらに走った。そしてここぞという瞬間、頭から飛び込んでくるりと回転し、両足でひげ男の胸をまともに蹴りつけた。それから間髪を入れずに起き上がると、短剣で敵の腹を引き裂いた。刃で下から上に引き裂くとき、湿っぽい、びりびりという音がした。斬られた男は自分の胃をつかみ、青っぽい色をした臓物のとぐろが出てくるのを必死におさえようとしていたが、それらは指のすきまから湧き出るようにこぼれ落ちた。
 ガリオンは自分の剣を取ろうと荷物に飛びついたが、やにわにうしろから荒々しくつかまれた。かれはしばらくもがいていたが、次の瞬間頭のうしろに猛烈な一撃を食らうと、目蓋のうらにチカチカと星がまたたいて、何も見えなくなってしまった。
「おれたちがさがしてたやつはこいつだ」意識が薄れていくとちゅうで、ガリオンはしゃがれ声がそう言うのを聞いた。
  


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でもはまっていないかと

2016年07月13日

 見張りは言った。「荷馬車を調べねばならんが、少々時間がかかるぞ」
「そのあいだ、ぬれて待たねばなりませんな」シルクは目をすがめて落ちてくる雨を見あげた。
「どうせならその時間、どこか気持のいい居酒屋で口の中をしめらせたほうがずっとよろしいんじゃありませんか」
「たっぷり金がないとそいつはむずかしいな」と見張りは期待をこめて言った。
「酒代のたしに手前からのささやかな友情のしSCOTT 咖啡機るしを受けとってくださればうれしいんですがね」
「そいつはすまんな」見張りは軽く頭をさげた。
 数枚のコインが手から手へ渡され、荷馬車は調べられずに町へはいった。
 丘の上から見たダリネはうっとりするほどだったが、ぬれた通りをガタガタと進むにつれて、ガリオンはそれほどでもないことに気づいた。建物はどれも似たりよったりで、尊大でSCOTT 咖啡機よそよそしく、通りはゴミがちらかってきたなかった。ここでは塩からい海の匂いに死んだ魚の臭いがまざり、足早に道を行く人々の顔は陰気で冷たかった。ガリオンの最初の興奮はしぼみはじめた。
「どうしてみんなあんなに悲しそうなの?」ガリオンはミスター?ウルフにたずねた。
「厳格で欲深な神がとりついているからさ」とウルフは答えた。
「どの神様のこと?」


「金だ。金はトラクより始末の悪い神なのだ」
「その子にたわごとを吹きこまないでちょうだい」ポルおばさんが言った。「ガリオン、ここの人たちは本当は悲しいんじゃないの。ただみんな急いでいるだけよ。大事なことがSCOTT 咖啡機あって、それに遅れるんじゃないかと思っているのよ。それだけのこと」
「ぼくはここに住みたいとは思わないな」ガリオンは言った。「さびしくて不人情そうなところだもの。ときどき思うんだ、みんなでまたファルドー農園に戻れたらなあって」かれは溜息をついた。
「ファルドー農園に勝るところはそうあるまいな」ウルフがうなずいた。
 シルクが選んだ宿屋は波止場の近くにあり、磯の香りと海と陸の境目の腐った岩屑の臭いがぷんぷんした。だが宿屋は頑丈な造りで、厩と、荷馬車用の倉庫が併設されていた。宿屋の例にもれず、一階は台所と広い社交室でテーブルが並び、大きな暖炉があった。二階が泊まり客用の寝室になっていた。
「まあまあだ」宿の主人と長々としゃべったあと、シルクが荷馬車へ戻ってきて報告した。
「台所は清潔そうだし、わたしが調べたところじゃ寝室には虫もいない」
「わたしがみてみるわ」ポルおばさんが言って荷馬車をおりた。
「ご随意に、奥方」シルクはばかていねいに一礼した。
 ポルおばさんの検査はシルクのときよりずっと時間がかかり、彼女が中庭へ戻ってきたときは、あたりが暗くなりかけていた。「やっと合格というところね」おばさんは不満気だった。
 ウルフが言った。「ひと冬腰をすえようというんじゃないんだぞ、ポル。せいぜいが二、三日だ」
 おばさんはそれを無視して宣言した。「熱いお湯をわたしたちの部屋へ運ぶよう注文してきたわ。わたしはこの子を連れて行って身体を洗うから、そのあいだみんなで荷馬車と馬の世話をしてちょうだい。いらっしゃい、ガリオン」おばさんはくるりと背を向けて宿屋に戻っていった。
 この子と呼ぶのをみんながやめてくれないものかとガリオンは熱望した。なんといっても自分にはれっきとした名前があるのだし、おぼえづらい名前でもない。このままでは長い灰色のあごひげが生える齢になっても、まだみんなにこの子呼ばわりされるにちがいないとかれは陰気に考えた。
 馬と荷馬車の世話がすみ、全員が湯を使ってさっぱりすると、一同は再び階下へおりて夕食を囲んだ。食事はポルおばさんの手料理にはかなわなかったが、カブでないだけ大歓迎だった。ガリオンは絶対の確信を持って死ぬまで二度とまともにカブを見られないと思った。
 食べおわると男たちはのんびり酒瓶を傾け、ポルおばさんは非難の表情をうかべて言った。
「ガリオンとわたしはもう寝るわ。二階へあがるときは、あまり何度も階段をふみはずさないようになさいよ」
 ウルフとバラクとシルクはそれを聞いて笑ったが、ダーニクはちょっと恥ずかしそうな顔をした。
 翌日ミスター?ウルフとシルクは早々と宿屋を出て、一日中帰らなかった。ガリオンはわざと目につく場所にいて、一緒に行かないかと訊かれることを期待したのだが、そうはならなかったので、ダーニクが馬の世話をしに階下へおりるとき、ついていった。
 二人でエサと水をやったあと、鍛冶屋が切り傷か石ひづめを調べているとき、ガリオンは言った。「ダーニク、こういうこと全部を奇妙だと思わない?」
 ダーニクは点検していた辛抱強い馬の脚をそっとおろした。「どういうこと全部だって、ガリオン?」鍛冶屋の平凡な顔はまじめそのものだった。
「何もかもだよ」ガリオンはちょっとあいまいに言った。「この旅も、バラクとシルクも、ミスター?ウルフもポルおばさんも――全部がさ。あの人たちはときどきぼくに聞こえないと思ってしゃべっているんだ。このすべてがものすごく大事なことらしいんだけれど、ぼくたちがだれから逃げているのか、何を捜しているのかよくわからない」
「わたしにもわからんのだよ、ガリオン」ダーニクは認めた。「見かけどおりでないものはいくらでもある――まるきりちがうこともないではない」
「ポルおばさんは前とちがうような気がしない?」ガリオンは訊いた。「つまりさ、みんなの態度を見てると、おばさんはまるで貴婦人かなんかみたいだし、ファルドー農園を出たら、おばさん自身までようすがちがうしさ」
「マダム?ポルはりっぱなご婦人だ。わたしにはずっとわかっていた」ダーニクの声が彼女の話になるときまってあらわれるおなじみのうやうやしい響きをおび、ガリオンはおばさんの異変をダーニクに感づかせようとしても無駄だと悟った。  


Posted by やそれでは at 20:32Comments(0)