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Posted by んだ!ブログ運営事務局 at

ったんじゃないか

2016年06月17日

「大寺院に行って帰ってきたってやつを一人でも知ってるか」
 やや離れたあたりで鋭い笛の音がした。
「スルケルだ」とティマク。「移動の時間らしい。く癇《かん》に障るってこと、あいつは気がついてるのかね」


「ほかにどうしようもないのさ。しゃべるほうはまだ覚行こう」
「何を話してたんです。何者ですか」クリクが尋ねた。
「一種の警邏《けいら》隊らしいな」
「われわれを探してるんですか。マーテルがどうにかして手を打ったんでしょうか」
「そうではないようだ。二人の話からすると、応召していな瑪沙 去斑聚光槍い者がいないか見回っているらしい。全員を集めて、出発しよう」
 一行が騎乗するとカルテンが尋ねた。
「どんな話をしてたんだ」
「文句を言ってた」とスパーホーク。「兵隊というのはどこの世界でも変わらないものだな。恐ろしげな話を剥《は》ぎ取ってしまえば、ゼモック人も結局はわれわれと大して違ってるわけじゃないってことらしい」
「アザシュを信仰している者たちです。それだけで怪物ですよ」ベヴィエがかたくなに言い張る。
「そうじゃない、アザシュを恐れているんだ。恐怖と信仰は同じとは言えないだろう。ゼモック人を根絶やしにする必要はないように思えるな。狂信者と一部のエリートを一掃すれば――アザシュとオサはもちろんだが。それ以外の一般人には、エレネ人の神でもスティリクム人の神でも、好きなほうを選んでもらえばいい」
 ベヴィエはなお頑固に反論した。
「あれは危険な民ですよ、スパーホーク。エレネ人とスティリクム人の雑婚は、神の目には忌まわしいものと映っているのです」
 スパーホークはため息をついた。ベヴィエはがちがちの保守主義者で、議論をしても得るところはなさそうだった。
「まあ、どうするかは戦争のあとで決めればいいことだ。今は先を急こう。周囲に気を配っておく必要はあるが、そう神経質にならなくても大丈夫そうだ」
 一行は馬を駆って渓谷の坂道を上り、そこここに木立の点在する高原に出た。雨は降りつづいており、東へ進むにつれてそこに混じる湿った大きな雪片はますます瑪沙 射頻瘦面槍多くなった。その夜は唐檜《とうひ》の木立の中で野営したが、濡れた枯れ枝の焚き火は小さく、元気がなかった。翌朝目を覚ますと、高原には重く湿った雪が三インチばかり積もっていた。
「このあたりで決断すべきですね、スパーホーク」クリクが降りやまない雪を見ながら言った。
「うん?」
「もともとよく知らなかったこの道が、雪でますます見分けにくくなってます。このままこの道を進むか、それとも北に針路を転じるかです。北へ向かえば、午《ひる》ごろにはヴィレタの街道に出られるでしょう」
「おまえはもう決めてるようじゃないか」
「ええ、まあ。本当に目的地へ着けるのかどうかもわからない道を探して土地鑑のない異郷を歩きまわるのは、どんなものかと思います」
「わかった、クリク。こういうことにかけては、おまえのほうが目端が利く。針路を北へ変えるという提案に乗ろう。わたしが心配しているのは、国境を越えたところでマーテルの配置した待ち伏せに出会うことだったわけだからな」
「半日が無駄になるぞ」アラスが指摘する。
「この山の中をさまよい歩くことにでもなったら、もっと時間が無駄になる。アザシュとは時間を約束してるわけじゃないからな。いつ行っても歓迎してくれるはずだ」
 一行はぬかるんだ雪の中を北へ向かった。雪と霧雨にぼんやり霞んでいた近くの丘に着くころには、雪は全員の身体に湿った毛布のように貼りついていた。その不快さのせいで、誰もがますます不機嫌になった。アラスとティニアンはときおり冗談を言って雰囲気を明るくしようと努めたが、それも長くは続かなかった。一行は黙々と、憂鬱に馬を進めていった。
 クリクの予想どおり午《ひる》にはヴィレタの街道に出ることができ、一行はふたたび東に向かった。雪が降りはじめて以来、誰かが街道を通った形跡はなかった。厚い雲に瑪沙 射頻瘦面槍閉ざされて夕暮れもはっきりとはわからず、あたりはいつの間にか暗くなっていた。その日は古いがたがたの納屋で夜を明かし、敵地にいるときはいつもそうするように、交代で見張りに立った。
 翌日の午後遅くにはヴィレタを迂回した。どのみち街には何もないのだから、危険を冒すことはない。
「誰もいませんね」街の横を通過しながらクリクが言った。
「どうしてわかるんだ」とカルテン。
「煙が上がってません。この寒さだし、雪まで降ってるんです。誰かいれば火を燃やしてるはずです」
「なるほど」
「出かけるとき、何か忘れ物をしてな」タレンが目を輝かせる。
「気にかけるんじゃない」クリクがぼそりと答えた。
 翌日は少し雪が小降りになり、雰囲気は目に見えて明るくなった。だがその次の日の朝にはまた雪が降りだして、一行はふたたび意気消沈した。
「何でこんなことをやってるんだろうな。どうしておれたちでなくちゃいけないんだ」一日が終わるころ、カルテンがむっつりと尋ねた。
「おれたちが教会騎士だからだ」スパーホークが答える。
「教会騎士ならほかにもいるじゃないか。おれたちはもうじゅうぶんやったと思わないか」
「帰りたいのか。おまえにも誰にも、ついてきてくれと頼んだわけじゃないぞ」
 カルテンはかぶりを振った。
「もちろんそうじゃない。どうかしてた。おれが言ったことは忘れてくれ」
 だがスパーホークは忘れなかった。その晩、騎士はセフレーニアを脇へ引っ張っていった。
「ちょっと問題があります」  


Posted by やそれでは at 11:35Comments(0)